新型コロナウイルスの流行に伴い、自治体DX化の重要性が顕著となりました。
DX化が遅れが課題とされる自治体と、DXの知見や技術を有する民間企業との連携が注目されています。
本記事では、自治体DXとは何か、民間企業とDXをすすめるメリット、官民連携のDX推進事例を紹介します。
目次
自治体DXとは?
DXはデジタル化が目的と認識されがちですが、自治体におけるDXとは「地域の課題解決や環境変化に柔軟に適応し、住民の生活をより良いものにする」ことです。
総務省は次の6点を自治体DXの重点取組事項としています。
- 自治体の情報システムの標準化・共通化
- マイナンバーカードの普及促進
- 行政手続のオンライン化
- AI・RPAの利用推進
- テレワークの推進
- セキュリティ対策の徹底
背景にはコロナ禍で、地域・組織間でデータが十分に活用できないことや、対面式の行政サービスから非接触型へのサービス移行などDX化の遅れが明らかになったことがあげられます。
また、2020年に策定した自治体DX推進計画では「自治体DXの取組とあわせて取り組むべき事項」として「全ての地域がデジタル化によるメリットを享受できる地域社会のデジタル化を集中的に推進する」という方針を掲げました。
自治体は、DX化の遅れに対して迅速に対応するとともに、制度や組織の在り方等をデジタル化に合わせて社会全体を変革することが求められています。
中でも、市町村は住民に最も身近な行政を担うため、自治体のDXを推進する役割は大きいといえるでしょう。
自治体DXを民間企業と進めるメリット
自治体DXを民間企業と進める大きなメリットは、デジタル専門人材の確保でしょう。
2021年年9月時点で、外部からデジタル人材を起用している市区町村は101団体です。
また、総務省は2020年度の「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」において「情報主管課職員の確保が課題と考える市区町村は 63.6%に上る」と発表しています。
上記のアンケート結果からも、自治体の情報化担当職員の確保・育成が自治体DXの推進の課題になっていることがわかります。
地方自治体は、民間企業などの外部人材を起用すれば、DX化に対するノウハウを一から構築する必要はありません。
そのため、本来の行政サービスを提供しながら、新たなサービスの利便性向上や職員の業務効率化を達成することが可能となります。
一方で、民間企業が地方自治体と協定を結ぶことは、信用できる企業であることの証明であり、社会貢献にもなるため、企業イメージの向上も期待できます。
官民連携のDX推進は、双方にメリットのある取り組みだといえるでしょう。
参考
自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 2.0 版】
官民連携による自治体DXの推進事例
官民連携による自治体DXの推進は、双方にとってメリットがあることを紹介しました。
実際の民間企業とすすめられているDXの推進事例を4つ紹介します。
福井県「CO-FUKUI 未来技術活用プロジェクト」
福井県が推進する「CO-FUKUI 未来技術活用プロジェクト」とは、同市が持つ課題を国内外の企業と共に、解決することを目的とした実証プロジェクトです。
2021年度は、国内外51社の中から6社が「未来技術活用プロジェクト」として採択されました。
当記事は、エーテンラボ株式会社(東京都)が提案した、習慣化アプリ「みんチャレ」について紹介します。
「みんチャレ」とは、90万人が愛用している無料の習慣化アプリです。
福井県は、コロナ禍で自宅での自粛が増えたことで、高齢者の心理的・社会的フレイルの増加が加速しました。
「みんチャレ」は、アプリを通して家族3世代でのフレイル予防を目的としたチャレンジが可能で、バランスのとれた食事・運動習慣の定着を図ります。
福井県の3世代同居が多く、家族のつながりが強いという特色が、同アプリのチャレンジを可能にしました。
同アプリは、高齢者同士にだけでなく、子や孫世代といった家族との繋がりを加えることで、より高い効果が見込めると期待されています。
みんチャレ利用データより、90日後のアプリ継続率は70%に上ると報告されています。(2021年11月27日時点)
参考
福井県「CO-FUKUI 未来技術活用プロジェクト」
みんチャレブログ
長野県「伊那市DXしあわせのまち宣言」
長野県伊那市は、2021年に「伊那市DXしあわせのまち宣言」をしました。
宣言の背景にあるのは、人口減少の問題です。
同市は、次に紹介する3つのサービスを軸とし、人口減少にともなう人材不足や、コミュニティの活力の低下などの地域問題の解決を目指しています。
まず、1つ目に紹介するのは、「ぐるっとタクシー」です。
ぐるっとタクシーの利用者は、事前登録と予約をし、AIにより自動配車されたタクシーに乗って、自宅から目的地まで移動できます。
免許証の返納などにより、移動手段がない65歳以上の住民を支援するサービスで、伊那市は新たな公共交通として位置づけています。
2つ目は、買い物ができない住民を支援するための「ゆうあいマーケット」です。
ゆうあいマーケットとは、住民がケーブルテレビか電話で注文した商品を、ドローンなどで、当日自宅に届けるサービスです。
同市は、買物支援の担い手不足や、荷物配送にかかる費用や時間などの課題を抱えていましたが、ドローンを配達に活用し上記の問題を解決しました。
最後は、オンライン診療のための専用車両「INA ヘルスモビリティ」を活用した、モバイルクリニックです。
「INA ヘルスモビリティ」は、通院困難な高齢者などに対して、車内でビデオ通話を使用したオンライン診療を可能にしました。
また、2022年7月からはモバイルエコーも搭載され、これまでできなかった妊婦健診も行われています。
モバイルクリニック事業には、現在10の医療機関が参画しています。
姫路市「スマート市民農園事業」
姫路市がすすめる「スマート市民農園事業」は、農業デジタル人材の育成と、農業にテクノロジーを活用するアグリテックへの取り組みです。
農業分野では、農業継承者不足や、食料自給率の低下など「食」に関わる深刻な課題解決に向けた変革が必要とされており、姫路市でも高齢化による農業の担い手の減少や、農業用ロボット(ファームボット)などのデジタル技術を扱う人材不足が問題となっています。
同市は「スマート市民農園」、「農業版STEAM教育」、「アグリテック甲子園」の3つの事業を軸に課題の解決に取り組んでいます。
まず、スマート市民農園や農業版STEAM教育では、ファームボットやe-kakashを利用した農業体験を実現しました。
その取り組みのひとつが、姫路市立書写養護学校におけるファームボットを利用した遠隔操作による野菜の栽培などの学習の提供です。
これまで車いすなどで田畑に入れなかった身障者の人達が農業に触れるきっかけをつくり、農業分野でのSTEAM教育の実証がすすめられています。
また、アグリテック甲子園では、全国の高校生・大学生等を対象に、創業分野におけるイノベーションの創出を目的としたアイデアを競い合う大会です。
審査は、スマート農業をけん引する東京大学大学院教授やカルビー株式会社などが行い、出場チームにはSBイノベンチャー株式会社の社員が、本番に向けてサポートします。
姫路市の「スマート市民農園事業」は産官民学と連携し、農業分野での課題解決に取り組んでいます。
愛媛県「LINEを活用した分散避難の把握・支援を行うシステム」
愛媛県では、令和3年に「愛媛県総合デジタル戦略」を策定し「安全・安心」スマート防災の実現を目指し取り組んでいます。
その中で「LINEを活用した分散避難の把握・支援を行うシステム」は、構築されました。
自然災害時の避難場所は、コロナ禍においては3密を回避するため、車中や友人宅への避難など、避難場所は多様化しています。
避難場所が分散されたことにより、避難状況の確認や、分散避難者への情報発信や支援の方法も複雑化しました。
愛媛県は、分散避難者への支援が滞らないように、国民の6割が利用しているLINEを活用し、分散避難の把握や支援するシステムを構築しました。
今後は、市町など現場の声をもとに、防災・減災対策の取組みを推進していくとしています。
参考
地域社会のデジタル化に関わる参考事例集【第2.0版】48 災害時の分散避難状況を把握・支援するシステムの構築【愛媛県】
愛媛県「LINEを活用した分散避難の把握・支援を行うシステム」
まとめ
本記事では、自治体DXとは何か、民間企業とDXをすすめるメリット、官民連携のDX推進事例について紹介しました。
人口減少と人材不足の問題を抱える今、デジタル化の重要性はさらに増していくでしょう。
「官民連携」の自治体DX化は、今回紹介した事例以外にも多くの成功例がみられます。
自治体と民間企業との協働は、今後、自治体DX化とともに、地域のデジタル社会のメリットを生み出すためにも、欠かせないものになっていくでしょう。
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