農業において、農業者の高齢化が課題の一つであることは、多くの国民が知っている現状です。
本記事では、農業DXにおいて既に知れ渡っている課題から、導入のメリット、企業の導入事例まで分かりやすく説明します。
目次
農業DXとは?
農業DXとは、スマート農業とFaaSの推進によって、食の領域を超えてより良い社会を実現していく事です。
スマート農業とは、ICT技術を活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業のこと、FaaS(Farming as a Service)とは、消費者のニーズに対応した価値を創造・提供する農業のことを指します。
農作業の超省力化・高品質生産の推進に加えて、消費者の環境志向・健康志向の高まりなど、様々なニーズへも対応していくことで、私たち一人ひとりの生活を豊かにしていくことを目指しています。
農業DXの課題は?
日本の農業DXは、主に下記5つの場面で課題を抱えています。
- 生産現場
- 農村地域
- 流通・消費
- 食品製造業、外食・中食産業
- 行政事務、手続き
詳細を農林水産省から発表されている「農業DXをめぐる現状と課題」(令和3年1月)資料に沿って見ていきましょう。
生産現場での課題
IoTやスマート農機
IoTやスマート農機の活用においては、まだまだ実用段階には達しておらず、実証の段階である場合が多いことが課題となっています。
また、どの技術やサービスが自分たちに適しているか、農業生産者自身による判断が難しいのが現状です。
通信環境
田んぼや畑など非居住エリアにおいて、センサーを搭載したデジタル農機を活用するには通信環境の整備が欠かせません。
機材への投資や通信速度など、農業生産の現場に必要な情報がまだ不十分である点が課題となっています。
生産経営の記録管理・活用
農作業の栽培・経営情報の管理においては、まだまだ紙ベースで管理されている点が課題です。
例えば多くのデータを収集・分析できるAI技術を活用すれば、経営工率を改善できるかもしれませんが、個々の生産スタイルにより、そもそもデータの把握自体が難しい場合が多いです。
資材調達・農産物の販売
農業情報に関するプラットフォーム「アグミル/agmiru」や流通情報に関するプラットフォーム「アグリーチ/agreach」といった情報発信サイトが増えてきています。
上記のような情報プラットフォームでは、複数の農業機器販売業者や新規取引先などが登録されているため、それぞれを比較し適切な農業ビジネスパートナーを選ぶことが重要になるでしょう。
画像解析技術の活用・導入
AIの画像解析技術は日々進化していますが、まだ農業の現場では活用しきれずにいるケースが見受けられます。
例えば画像解析により品種や状態を把握できる技術はあるものの、まだ研究段階であることがほとんどのため、実用化へ向けた環境整備が必要になります。
土壌の評価指標
農産物の生産者が気を配るもののひとつに土壌の状態があります。
土壌は天候や地中の微生物に左右され、生産物に影響を与えるからです。
この土壌の評価を数値でしっかり追うことで、環境保全につながるだけでなく、農薬を使わない有機農法に関する指標を確立していくことができます。
現状はまだ微生物の活動などに関する評価指標が確立されていないため、生物のDNAを構成する塩基配列を大量に解読していく次世代シークエンサーの発展が期待されています。
農村地域での課題
労働力不足
農業の現場では高齢化が進み、次の世代の担い手不足や技術の継承が課題となっています。
複数の地域を繋げて関係人口を増やす取り組みも行われていますが、まだ限定的であることも課題です。
また、生産現場に関わる外国人労働者との共生においては、文化や言葉の壁も課題と言えるでしょう。
鳥獣害対策
農村人口・狩猟者の減少により、生産物を鳥や動物から守るための、デジタル技術活用の進展・実装が課題となっています。
センシング技術を用いた鳥獣の検知や捕獲の効率化が実証されてきていますが、生産現場での実用化を考えると、費用面でも課題が出てきそうです。
農業基盤整備
農村や農場施設が古くなると、メンテナンスが必要になりますが、現場では高齢化が進み、デジタル技術に頼る必要性に迫られています。
今後はさらに農地の座標データをスマート農機に連動させ、自動走行ロボットやドローンを正しく用いた基盤保全が課題となるでしょう。
自然災害への対応
自然災害の多い日本において、災害が農業に与える影響は大きいものです。
予測の難しい災害対応ですが、デジタル技術を活用することで被害を予測したり、起きてしまった被害の範囲を把握したりすることができます。
災害後の普及に向けた環境を整えることも課題のひとつです。
流通・消費の課題
流通の課題
物流を支えるトラックドライバー不足が問題になっています。
共同輸送やストックポイントの利用の他、最適な輸送経路・手段の確定も検討が必要です。
生産履歴・取引データ情報の管理
多段階を経て供給される農産物などについて、データ改ざんがしづらいブロックチェーン技術を活用することで、生産・取引データ透明性を高めることが可能です。
信頼性向上に繋がることが期待できますが、まだ現場では検討段階であるケースがほとんどです。
消費者ニーズの把握
「食べチョク」のように、農業生産者と消費者が直接やりとりし、販売・購入ができるWebサイトでは、ある程度の消費者ニーズを把握することが可能です。
しかし、その情報はまだまだ限定的です。
購入を促す販売方法構築に活かすには、顧客のニーズや傾向といったデータ分析が必要となりますが、そこまで追える生産者が少ないのが現状です。
食品製造業、外食・中食産業の課題
業務の自動化
農業に従事する働き手が不足する中、生産から消費に至るまで食品業界の効率化を図るには、自動化が欠かせません。
農業生産者が心を込めて育てたお米や野菜、果物は、一つ一つ状態が異なるため、機械化の難易度は高いとされています。
他にも自動化された機械を扱う知識や十分な設備投資など、細かく見ていくと課題は山積みです。
フードテック
環境問題が注目を浴びるようになり、食糧にも持続性可能でエシカルな側面が求められる時代になりました。
代替肉や昆虫食など、フードテックが注目を集めています。
フードテックに関する技術開発と併せて、フードテック食品の社会への普及・浸透も課題となっています。
行政事務、事務手続きの課題
事務手続き・データ活用
どの業界においても発生する事務手続きですが、その中でも特に農地情報管理はDBを活用したペーパーレス化が期待されています。
また、農業に関わる行政手続きをオンラインにしていく上で、データをきちんと活用できる人材の育成も課題となります。
農業DXの現状は?
ここまで見てきたように、農地情報などを含む農業生産者側のデータは、まだほとんどが紙ベースであるのが現状です。
ロボットやスマート農機の活用においても、実用前の実証段階である場合が多く、農業DXは今後さらなるスピードアップが求められるでしょう。
農業DXの事例は?
食糧不足、労働者不足に向き合っている農業DXの事例を2つ紹介します。
事例1:農業者向けアプリ「MAFFアプリ」
農林水産省農業者向けアプリ「MAFFアプリ」とは、使う人の属性に応じた情報発信や、現場の要望をリアルタイムで受信・発信できるアプリです。
アプリユーザーには、興味関心に合わせた記事コンテンツなど、農業に役立つ情報が直接農林水産省から届きます。
さらには、農林水産省からのアンケートなどを通して直接意見を送ることができる「マフちょく」機能だけでなく、現状は紙ベースの手続きの一部をオンライン申請することも可能です。
事例2:農業ICTプラットフォーム「CropScope」
NEC(日本電気株式会社)が開発した農業ICTプラットフォーム「CropScope」は、これまで触れてきた課題でもある気象情報、画像データ、ドローン活用、土壌センサー、農業生産者の記録情報を分析し、AIがアドバイスをくれるシステムです。
カゴメやクボタと連携して開発が進められており、たとえば農作物の成長に適した時期に、最適な栄養を届けられるよう、AIが情報を教えてくれたり、収穫の予測を立ててくれたりします。
農業DXのメリットは?
IoTやAI、スマート農機を導入し、全体の効率化が進むと、少ない時間・人数での農作業・経営が実現します。
また、出来上がった生産物を届ける際、最適なタイミングや必要なトラックの台数、最短ルートなどを分析することもできます。
農産物の生産から消費者への提供に至るまでの各場面で、大幅な効率化が可能です。
デジタル知識の習得や必要機材、環境整備等に、最初はある程度の初期投資が必要かもしれませんが、データを収集し次の手に応用できるという長期的な視点に立つと、メリットがあると考える人も多いでしょう。
農業DX推進のポイントは?
デジタル技術を駆使し、環境を整えて農業DXを推進していくには、相応の人材育成がポイントになります。
現状の人手不足を補うには、デジタルソリューションの取捨選択を正しく判断でき、実際に現場で活かしていける人材の重要性が高まるでしょう。
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