物流業界における倉庫からの輸送業務が深刻な人手不足に陥っていることは、多くの読者がご存知かと思います。
過去には国土交通省による運賃の検討、外国人労働者で補う案もありましたが日本語がある程度読み書きできなければ運転免許証が手に入らないことが課題となりました。
国内ではまだ普及していませんが、筆者が住んでいたドイツやイギリスでは大型の連結トラック(2台分の荷物が乗る)が公共交通機関としてだけでなく運送にも利用されています。
アメリカでは大型トラックの無人走行システムの試験運転も開始されました。
物流倉庫を含めたデジタルトランスフォーメーションが、海外ではどのように進められているのでしょうか。
本記事では、当メディアを運営するストラテジーテック・コンサルティング編集部の海外担当が、書籍にまだ載っていない海外の最新物流業界DX事例をわかりやすくご紹介します。
目次
物流業DXの海外トレンド
ヨーロッパ、アメリカ、インドの物流専門人材を集めたグローバルチームを強みとし、世界貿易のデジタル化を目指すFreightifyは、以下の通り語っています。
End to Endの概念で可視化と作業効率を高めるには、出荷工程とバックオフィス業務をデジタル化していく必要があります。
リアルタイム管理業務とペーパーレス化により大幅なコストカットが期待できるからです。
さらにデジタル化によるブロックチェーン活用は、ビッグデータと人工知能を組み合わせることで収益を最大化していけるでしょう。
企業内部におけるDXの最大の魅力は、組織内のすべての部門メンバーがデータにアクセスして活用できることです。
参照:)10 Reasons Why Your Logistics Business Need Digital Transformation in 2021
物流業DXの海外市場規模
物流企業はデジタル化によるコスト削減を期待しています。
2021年4月に受理されたタイの研究チームが発表したロジスティクスDXに関する論文によると、2025年までに1.5兆ドル(米)の市場価値があるといわれています。
また、ロジスティクス・サービスプロバイダー(LSP/Logistics Service Provider)は、サプライチェーンにおいて重要な役割を担っています。
特に海外展開している貿易物流の場合、強い味方となっているのです。
さらにデジタル化による環境に配慮した物流業界を目指すことも視野に入ります。
温室効果ガスの排出量、廃棄物の管理処理、最小限のエネルギー予測もDXソリューションが提供できる情報だからです。
物流業DX海外事例の紹介4選
海外の物流業DX事例①:新パレット技術を搭載した物流センター設置(ドイツ)
スイスを拠点にヨーロッパ全域やアメリカ、アジアにも進出しているグローバル物流DXコンサルティング企業Swisslogの物流DXケーススタディです。
ドイツ国内で数多くの店舗を構えるスーパーマーケットRewe(レヴェ/日本の成城石井をややカジュアルにした存在感)は、同社史上最大のプロジェクトのひとつをやり遂げました。
デジタル化をとりいれて、野菜、果物、乳製品を含む生鮮食品の新しい物流センターを建設したのです。
場所は物流倉庫をひとつにまとめる事ができるよう、ドルトムントに大型複合ビルを建設しました。
これにより運送距離の節約だけでなく、全体のエネルギー消費量を30%削減させることに成功した事例です。
この時Reweは最新のパレット技術とソフトウェアに投資もしています。
保管倉庫の温度を一定に保ち、半自動のストレージにはスタッカークレーンも配備して食品を守っています。
このプロジェクトには、Swisslogの視覚化できるマテリアルフロー・コンピューター(MFC)が導入されました。
参照:)Rewe Dortmund, Germany: Future logistics for fresh produce storage
海外の物流業DX事例②:飲料市場の物流倉庫を自動化(アメリカ)
続いて、同じくグローバル物流DXコンサルティング企業Swisslogから、飲料商品の物流倉庫自動化の事例をご紹介します。
飲料市場は新しいフレーバーの商品が増えていく中、店舗での消費は減少傾向にあります。急速に変化する市場に、デジタル化で対応することができます。
外食産業向けのソリューションをコンサルタントに依頼することで、生産から販売における物流を自動化できるのです。
専任コンサルタントの丁寧なヒアリングによる課題の洗い出しをした後、パレット、コンベヤー、倉庫のピッキング作業に基づき、デジタル化手法をカスタマイズしました。
その結果、物流倉庫における在庫管理の精度が100%に達しました。
参照:)Dynamic and agile beverage warehouse automation
海外の物流業DX事例③:コスト削減AIで空の倉庫問題を収益化(オランダ)
オランダの最新テクノロジー企業TradecloudのAIを物流倉庫の空きスペース改善にとりいれた事例です。
物流業界において、倉庫内の空きスペースを見逃すことはできません。
ボストンコンサルティンググループによると、海路輸送の最大8%は空のコンテナの保持・維持費にあてられています。空のコンテナ問題は、放置しておくとコスト増と収益の損失につながるのです。
課題をさらに圧迫するのは、エクセルによる手動管理です。効率がよい業務フローとはいえません。
そこでオランダの物流プレイヤーNileDutchとTIPTrailer Servicesが、AI技術の導入に目を向けました。
海路と陸路の両方をカバーし、類似点を共有していきます。倉庫の空きスペース管理に向けて、AIに機械学習をさせていきました。オーダーメイドの人工知能システムにより、業務の効率化を目指します。
作業員はエクセル管理から離れ、代わりにAIを活用します。
その方が必要なリソースや時間管理を正確に行うことができます。
デジタル化により部門間もシームレスにつながり、各々が意思決定のためにデータへアクセスできる環境を整えるのです。
その結果、収益が11%増加すると予測されています。
参照:)AI case study 3:Cost-saving AI in Manufacturing Logistics
海外の物流業DX事例④:物流業界グローバルリーダーDHLのデジタル・トランスフォーメーション
物流業をグローバル展開していることで有名なDHLのDXプロジェクトをみていきましょう。
DHLは、DX推進によりDHLExpressの業務効率と生産性が向上したと語っています。
人工知能を搭載したシステムによる出荷管理は、リアルタイム監視に長けており、完全に制御されています。何か問題があると、フラグを立てて管理者へ通知が届くのです。
運送中に停止している荷物があると、予測ルートが次々と計算されマッピングされていきます。
チームのアナリストはこの解析データをもとに、輸送時間を把握し問題を解決することができるのです。
この一見簡単そうにみえるプロセスは、かつては非常に難しいものでしたが、デジタル化に救われました。
ドイツポストDHLは、2025年の目標に向かって2021年から2025年までに20億ユーロ以上の投資を見込んでいます。
DHL Expressは年間5億近くの出荷を実現しており、その施設は世界中に3000カ所以上あります。
業務を効率化するため、無人の輸送車、カスタマーサービス用チャットボット、自動追跡機能が導入されました。
パンデミックを迎えると、これまでとは異なる新しいライブチャットや、デジタルアシスタントにも頼ることになりました。
前例のないDXへの取り組みは、DHL Expressをより良い方向へと導くことに成功しています。
参照:)HOW DIGITALIZATION HAS TRANSFORMED DHL EXPRESS’ OPERATIONS/DHL
物流業DXの課題
物流業DXを推進する背景に、リソース不足が挙げられます。その課題を解決する方法のひとつがDXになっているのです。しかし、物流業だけがDXを実践しても多くの課題が残ることが予想されます。
たとえば、筆者は本帰国する際に引っ越し荷物の配送をすべてDHLに頼んだのですが、ちょっとしたトラブルに見舞われ集荷センターへ人力で運んだ経験があります。
物流業だけでなく市民の生活を巻き込む真のデジタルトランスフォーメーションが求められるのではないでしょうか。
さらにDXが進んでいる中国で超個人配達サービスFlashEx(闪送)が普及している背景に、中国の都市全体のデジタル化があります。
中国の新幹線はマイナンバーカードをかざして乗車することができるので、チケットの受け取り発行が非常に効率的であるため個人配送もしやすいのです。
このような環境が新しいデジタルサービスを後押ししているといえるため、物流業に関わる環境にも課題が残されているのではないでしょうか。
物流業DXの海外事例まとめ
海外の物流業DX事例から、業界だけでなく市民の生活を巻き込むプロジェクトの必要性が伺えます。
人材不足の物流業DXを本格的に推進するにあたり、デジタルに強い物流DXコンサルタントやエンジニアが求められています。
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