ドイツに本社を置くSAP社はドイツ国内のみならず世界130カ国以上にオフィスを構えるグローバル企業です。ヨーロッパを代表する企業のひとつとも言われています。
製造業を強みとするドイツで生まれたSAP社は、これまでERPを主軸に数々のDXを支援してきました。
2027年までにサポートが終了する予定のSAP社ERPを導入している企業は、SAP S/4HANAへの移行に着手しているか、移行スケジュールを検討する時期に突入しています。
本記事では、当メディアを運営するストラテジーテックコンサルティング編集部の海外担当が、海外SAP導入・移行プロジェクトの成功事例をご紹介します。
目次
海外DXトレンド:SAP社BPI戦略とRISE with SAP
製造大国ドイツ発祥のSAP社は2021年のSignavio買収を契機に、地球環境に配慮した企業活動による持続可能なビジネスの実現につながる社会を目指しています。
そこで既存のクラウドソリューションBPI(ビジネス・プロセス・インテリジェンス)に加えて、RISE with SAPソリューションが登場しました。
SAP社はRISE with SAPを、デジタル・トランスフォーメーションの推進支援に欠かせないコンシェルジュサービスと位置づけています。
パンデミックによって加速したビジネス変革におけるDXプロジェクトの成功の鍵を握る包括的なソリューション提供を目的にしているのです。
既に米国NBAがRISE with SAPソリューションを導入し、SAP S/4HANAクラウドへの移行に着手したことも知られています。
BPIにはSAP Signavio Process IntelligenceやSAP Signavio Process Managerを含む多様なソリューションが複数あるため、ここで少し触れておきましょう。
まずSAP Signavio Process Intelligenceでは、ビジネスプロセスを分析し可視化することができます。
これはS/4HANAへの移行を含むビジネス変革に欠かせない詳細な調査および隠れた価値の発見につながるとされています。
また、SAP Signavio Process Managerを活用するとビジネスプロセスを再構築する際のシミュレートが行えるでしょう。
さらに細分化されたソリューションがBPIには含まれるため、コンサルタントにはプロジェクトの各フェーズに合わせて適切にソリューションを選定する力が求められます。
このようにSAP社の知見を保有するコンサルタントがBPI戦略を練ることで、地球環境に配慮しつつビジネスに変革をもたらすDXを実現できるといえます。
参考:Digital transformation with SAP Business Process Intelligence
海外DX事例1:製造業の大手メーカーSAP導入(アメリカ)
ここからは、実際の海外でのSAP導入事例をご紹介します。
アメリカのイリノイ州を拠点とするSAPコンサルティング企業のMygo Consulting社は、製造業の大手メーカーのERP導入に成功しました。
同社のクライアントは公共交通機関のPOSシステムや自動販売機を製造しており、シカゴを中心に製造工場と配送センターを所有しています。
このクライアントは会社が成長する過程で、数多くのシステムが統合されていないことを問題視するようになりました。
それぞれのツールがバラバラに様々なデータを収集していたため各数値が曖昧になり、正確なデータが収集できなくなっていたのです。
そこで比較検討の末、膨大なデータの統合とシステムの柔軟性が評価されたSAP社のERP導入が決まりました。
財務や収益管理、セールスからサービスマネジメント、倉庫や生産管理までシームレスに行えるSAP ERP 6.0を導入したのです。
実際にかかった導入費用は、当初の予定を上回る190万ドルでした。
導入フェーズをいくつかにわけて、それぞれ数ヶ月かけてプロジェクトを遂行し、
マネージャーやコンサルタントを含む、20名以上がこの導入プロジェクトに加わったことでSAP ERP 6.0の導入成功が実現しました。
実に様々な導入プロセスを経て無事にプロジェクトが完了した後は、日々のサポートやトラブルシューティング対応を中心とするフェーズに移っています。
このように製造プロセスを包括的に把握し、膨大で複雑なデータを統合するにはSAP社の複数のソリューションに精通しているコンサルタントが強い味方となるでしょう。
参考:Case Study: SAP ERP implementation for a manufacturing company
海外DX事例2:SAP ERPからS/4HANAへ移行(オーストラリア)
オーストラリアで再生可能エネルギー事業を担うHydro Tasmania社は、SAP社のERPからS/4HANAへ移行したことで利益をあげました。
このオーストラリア大手の再生可能エネルギー生産企業は長年、ドイツSAP社のERPシステムで財務を管理してきました。
しかしながら管理工程でどうしても発生してしまう手作業の会計プロセスを最小限に抑えたいという考えと、将来のイノベーションへの土台を築くことを鑑みS/4HANAへの移行を実施したのです。
システムの移行には10カ月間のリモート導入期間が含まれ、会計管理やデータ分析へのアクセス改善が実施されました。
政府事業と電力市場が有利に働いたことも影響し、この移行プロジェクトが完了した12カ月後には当初の利益目標を20%上回ったのです。
成果は利益にとどまらず、顧客体験の向上に加えてシステム全体のレスポンスタイムが改善されたことでスタッフのUXも向上しました。
コスト削減ばかりが注目される再生可能エネルギー分野において、S/4HANAへの移行プロジェクトは大きなインパクトを与えたのです。
同社はSAP社アワードのファイナリストにも選ばれ、戦略的パートナーに選定したコンサルティング企業も喜びを表明しています。
ビジネスパートナーであるコンサルタントと連携して円滑にS/HANAへ移行し、変化する市場の波に乗ったことでSAP社も注目する結果を導いた事例です。
参考:Hydro Tasmania Leverages SAP S/4HANA for Digital Transformation
海外DX事例3:SAPプラチナパートナーの食品メーカー事例(欧州)
SAP社のプラチナパートナーであるSOA People社は、ヨーロッパを拠点にグローバル且つクラウド上で多くのSAP導入プロジェクトを成功に導いています。
いくつかある事例やSAP認定製品の中から、食品業界のケースをみていきましょう。
同社は食品業界における豊富な知見を、Ready4 Food & Beverageというソリューション開発に活かすことで、変化の激しい食品・飲料業界において売上の増加とコスト削減に向けたプランニングを支援しています。
このソリューションは、食品開発から生産、流通、ネットワーク構築、意思決定を促すデータ分析に至るまでのプロセスを統合的に管理できるのが特徴で、食品業界のクライアントが抱きやすい課題の解決に役立っています。
材料や消費期限、成分を含む生産工程だけでなく、倉庫管理、需要予測、価格設定、セールス、マーケティング領域まで細かく把握できるという優れた点があり、同社はSAP社からプラチナパートナーとして認定を受けています。
次に食品の製造販売に関わる膨大なプロセスを管理できる、独自の製品を持つ同社ならではの成功事例をみていきましょう。
ベルギーの伝統的なチョコレートメーカーGaller社のS/4HANA移行事例です。
SOA People社は自動化ソフトウェアツールMIGNOWを導入して移行プロジェクトを支援しました。
その際、ブラウンフィールドの既存ECC環境上にあるデータ移行を自動化することで、導入期間を3カ月に短縮することに成功したのです。
さらにSAP社Fioriアプリを活用し、ダッシュボード上で把握できるようにすることでより迅速で生産的なアプローチが可能になりました。
この成功事例は、SAPそのもののポテンシャルのみならず、SOA People社が持つ食品業界に特化した専門コンサルティングという強みが合わさったことで実現できた事例かと思います。
この事例からは、SAP社のソリューションに関する知見だけでなく、業界の経験も豊富にあわせ持つパートナー企業やコンサルタントの存在が重要だといえます。
参考:ACCELERATED CONVERSION TO SAP S/4HANA MEANS MINIMAL DISRUPTION
参考:A DIGITAL SOLUTION FOR THE AGRI-FOOD PRODUCTION AND DISTRIBUTION SECTOR
SAPの海外事例まとめ
いかがでしたでしょうか。
3つの海外SAP事例の共通点を簡単に振り返りましょう。
本記事でご紹介したすべての事例に共通して言えることは、膨大なデータやプロセスを管理しビジネスへの変革をもたらすDXを実現するために、
・SAP導入によりデータやプロセスの統合を実施した
・そのSAP導入を支えるパートナー企業や、幅広い知識と経験を持つコンサルタントの存在があったおかげで単なる導入の成功のみならず、導入にかかる期間の短縮や利益の向上に貢献した
ことといえます。
この共通点は、海外事例に限らず国内のプロジェクトにも当てはまるでしょう。
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