中国のGDPを都市別に見るGRPランキングで上位にランクインしている上海市、広州市、深セン市と、テック系スタートアップ企業が集まる杭州市は、スマートシティ構築が進んでいることで知られています。
2022年に発表された中国の「都市の商業的魅力ランキング」でも、上海市、広州市、深セン市に加えて杭州市が選ばれました。
スマートシティとは、新技術を活用することで地域の抱える課題の解決や、新しい価値の創出等を行う都市・地域を指します。
本記事では、デジタルイノベーションが魅力となっている中国の代表的な都市におけるスマートシティ事例を簡単にご紹介します。
参考:
2021年中国都市別GRPランキングを発表(中国)/JETRO(ジェトロ)
「2022年都市の商業的魅力ランキング」発表(中国)/JETRO(ジェトロ)
目次
中国のスマートシティ事例1:上海
中国のニュースメディア「潇湘晨报(Xiaoxiang Morning Herald)」においてWanda Information社は、スマートシティ構想には大きく3つの構築段階があると伝えました。
中国のスマートシティ構想3段階
1.スマート医療、スマート交通といったスマートな生活全般を実現する段階
2.ビッグデータを活用し使いやすいデザイン設計によるUX改善
3.より最適な生活を実現するためのシステムとプロセスの変更および改善
特に都市別GRPランキングで第1位を獲得した上海市は、2020年には「ワールド・スマートシティ・アワード」も受賞し、他の都市のスマートシティ化に向けたモデル都市になりうるといわれています。
既に第1段階から第2段階への移行が始まっている上海市は、第3段階の「破壊と創造」にも置き換えられる「解体と再構築」に向かっていると捉えられているのです。
上海のスマートシティ化でシステムを再構築することは、同時に組織とプロセスの再構築も意味しています。
再構築のために必要な個人情報を含む都市全体の膨大なデータが日々収集され、市民の生活に還元されています。
上海市で実際に暮らしている筆者の知人のビジネスパーソンは、スマートシティ化のため個人情報が活用されていることに抵抗はほとんど感じないそうです。
それよりもコンビニでの顔認証決済、デジタル技術を応用した交通機関システム、あらゆるサービスの電子決済といった生活に必要なことが、個人IDをアプリに紐づけるだけでワンストップ利用できる点を評価しています。
中国のスマートシティ構想・構築を牽引する上海市をモデルとする技術サービスの展開は、今後も他地域にも拡がっていくでしょう。
参考:王兆进:万达信息助力智慧城市“上海模式”成为样板和范例/潇湘晨报
中国のスマートシティ事例2:杭州
アリババグループと2016年に契約した杭州市は、「ET City Brain(都市大脳)」と名付けられたクラウドとAI技術を活用した都市管理システムを導入しました。
上海から車で約2時間の杭州市は、上海に次ぐスマートシティです。
ET City Brainは、映像解析テクノロジーを用いて渋滞や事故の検出を速やかに行い、リアルタイムで信号を最適化することで都市の渋滞緩和に貢献しています。
また、緊急時には警察や救急車両が優先的に走行できるよう、配車指令や信号調整も対応しています。
ET City Brainはアリババ・クラウドのMax Compute(データ処理用プラットフォーム)を活用することで、杭州市の細やかなスマートモビリティ社会を実現しました。
これにより救急車の到着が早まるだけでなく、事故の特定精度が92%を超えたのです。
さらに杭州市では交通面のみではなく、福祉障害者支援の面でも技術開発が進められています。
5G環境で人工知能を用いた開発をしている企業が成長しており、テクノロジーによって人工の手(ロボット)が開発され、何らかの理由で手がない市民の日常生活の助けとなっています。
中国のスマートシティは創造性に満ちており、スマートシティ化に関わる個人情報保護の問題よりも、不便を補うような生活面への利点の方へ注目が集まっています。
参考:
東アジア地域におけるスマートシティ開発に関する調査研究/公益財団法人 アジア成長研究所
中国(杭州)人工智能小镇:聚力人工智能 科技惠残助残/中国新闻网
中国のスマートシティ事例3:深セン(広東省)
香港に程近い広東省の深セン市が、中国のシリコンバレーと呼ばれている事をご存知のビジネスパーソンは多いでしょう。
深セン市には、2025年までに新たなグローバル・スマートシティのベンチマークとなるべくデジタル都市モデルを構築し、2035年までには人々のライフスタイルからガバナンスまで、イノベーションを行き渡らせるという計画があります。
計画を実現するためのプロセスには、新しいインテリジェント・センター(広州市の事例で詳しく説明)の構築が含まれ、デジタル政府を実現するスマートシティにおいて、長期的な視野に立った投資開発の必要性が増しています。
また、デジタルツインでも活躍しているBIM技術(Building Information Modeling/建築情報モデル)を適用したバーチャルモデルを構築できるプラットフォームは、デジタル政府とスマートシティの実現において重要な位置付けです。
これにより深セン市は2025年までに、オンラインとオフラインが統合したデジタル政府のワンストップサービスを、これまでの「使うことができる」という認識から、「使いやすくて愛される」へ進化させようと試みています。
デジタル社会の構築において深セン市は、教育、医療、会議、育児、雇用、文化、スポーツに着目し、高齢者や障害がある市民を支援し、情報資源の活用をより強めていく計画があります。
参考:深圳市数字政府和智慧城市“十四五”规划发布:打造全球数字先锋城市!/中国发展网
中国のスマートシティ事例4:広州(広東省)
広州市のスマートシティは、2035年の長期目標で、デジタルビレッジ構想を通して新しいスマートシティの構築を推進していくと中国メディアで報じられています。
デジタルビレッジは既に中国では10年の歴史があり、近年は中国国外でデジタルビレッジの知見を応用する取り組みも始まっています。
具体的には、アリババやHuawei(ファーウェイ)といった中国大手企業がテクノロジーを用いて人材を教育し、地方創生に活かす取り組みです。
地方での暮らしの中からはAIの精度向上等に活用され、エコシステムの実現に繋がります。
広州市では、デジタル政府、デジタル経済、デジタル社会化が本格化しているのです。
また、スマートシティには新時代の宇宙統合技術も視野に入れた4つの構成要素が必要とされています
スマートシティ構成要素4つ
・インテリジェント・インタラクション(知的交流)
・インテリジェント・リンク(知的伝達・思考)
・インテリジェント・センター(知的システム)
・インテリジェント・アプリケーション(知的アプリ)
4つの要素は地球と宇宙を繋げるユビキタスシステムや通信ネットワーク、アプリケーションを利用しており、人工知能(AI)を用いた膨大なデータ(知識)の学習と蓄積のプロセスが欠かせません。
特にビッグデータを活用したシームレスな都市になることが将来見据えられている広州市は、遅延のないデータ接続環境や高度な画像提供技術を活かし、全自動運転の路線バスの運行が始まっています。
全自動によるバス運行は、中国のスタートアップ企業WeRideとバス関連企業が連携することで実現しました。
電気自動バスにはハンドルやアクセル、ブレーキがなく、安全を確認する補助スタッフが同乗することで運行管理されています。
車体には非常ボタンでブレーキがかけられる工夫が施されているので、安全面にも配慮された設計です。
乗客はアプリを利用すればリアルタイム運行状況がわかるだけでなく、車内アナウンスやディスプレイからも最新の運行状況が確認できます。
スマートな全自動運転バスが活躍する広州市は、まさにスマートシティといえるでしょう。
参考:
院士解读广州智慧城市建设:将实现“无缝”时空/南方新闻网
広州市初の全自動運転路線バスが運行開始(中国)/JETRO(ジェトロ)
中国のスマートシティ事例まとめ
中国経済を率いる4都市のスマートシティ構築事例について、簡単に紹介しましたがいかがでしたか。
各都市がそれぞれ発展計画を持つことで企業や人が集まり、デジタル政府を含めたスマートシティ構想における中国社会の活気が少しでも伝われば幸いです。
中国の主要都市がモデルとなり、中国の他の都市へ拡がっているように、今後はインドやアフリカといった中国国外へもスマートシティ技術が流れる道筋が見え始めています。
上海在住の中国人ビジネスパーソンに、2022年に広東省の深セン市と広州市を出張で訪れた際の話を伺ったところ、中国語の方言とも呼ばれる広東語を話す人にほとんど出会わなかったそうです。
中国人同士でも意思疎通のため英語を用いるケースがあるくらい、中国の標準語と広東語は大きく異なります。
今回話を伺った上海の知人は標準語を話すため、出張先で広東語が理解できるか不安だったそうです。
ところが実際に現地を訪れると、広東省のスマートシティには中国各地から人が集まっており、標準語で仕事を進める事が多いため、問題なく過ごすことができました。
つまり、中国各地から新しく人々が移り住んでくることが、スマートシティ技術や社会の発展に繋がる要因のひとつと捉えることができます。
以上、テクノロジー技術を用いて生活全般に様々なイノベーションを起こす中国のスマートシティ(都市DX)をご紹介しました。
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