海外の航空・鉄道業界DX事例3選|製造プロセス最適化や生き残り戦略についても解説

新型コロナウィルスの影響を受けて、2020年から国内・海外での移動が制限される状況が続いており、航空・鉄道業界は苦戦を強いられています。
それに加えて、日本の航空・鉄道業界は海外と比較してDX化でも遅れている部分は否めず、それが苦境に拍車をかけている一面があります。

日本の航空・鉄道業界が苦境を脱するためには、海外の航空・鉄道業界のDX事例を参考に、将来を真剣に検討する必要があるでしょう。
この記事では、海外のDX事例をご紹介する中で、日本の航空・鉄道業界のDXでも重要となる製造プロセス最適化・生き残り戦略についても解説します。

航空・鉄道業界DXのトレンド 

航空・鉄道業界におけるDXのトレンドとして重要なのは、

・対顧客向けSNSの活用
・マーケティング面での顧客情報の活用
・空港などの施設におけるデジタル技術の活用

などがあげられます。

一例として、KLMオランダ航空は、SNSを活用して顧客とのコミュニケーションを行い、24時間体制で問い合わせを受け付ける体制を構築しています。
ソーシャルメディア経由の乗客数が3倍に増えたというデータもあり、将来的に日本でもスタンダードな活用法になるかもしれません。
もちろん、交通機関と通信を組み合わせたサービス「MaaS」など、国内でもDXの取り組みが進んでいます。
顔認証による搭乗手続きなど、利便性を高める試みは今後も多くの企業が進めていく傾向にあり、世界でも比較的早い段階で導入されたケースもあります。

ただ、DXを長期的に顧客体験(CX)につなげていくためには、多方面でDXを実現することが大切です。
具体的には、管理会計やSDGsへの配慮など、顧客の満足度に直接関係しない部分も考えた上でDXを進めることも、より重要になってくるでしょう。

今後、航空・鉄道業界のDXが発展するトレンドは、以下のような方向性に進むものと推察されます。
・日々の業務や顧客情報などから得たデータの活用
・空港、機内などでのデジタル技術の活用
・SDGsに配慮するなど未来を見据えたシステムの活用

そこで、海外の航空・鉄道業界のDX事例について、上記に該当する事例をいくつかご紹介します。

 

海外の航空・鉄道業界DX事例1:データを活用した製造プロセス最適化

DXは、航空・鉄道業界の製造分野にも及んでおり、特に3Dプリンターの導入が進んでいます。
航空機製造で知られるエアバス社の親会社であるEADS社も、3Dプリンターの導入によって、大幅に生産効率を向上させている会社の一つです。

EADS社は、金属用プリンターを導入したことで、金属部品の製造を3Dプリンターで行えるようになりました。
ただ新しい技術を導入しただけでなく、社内では実際に製造を開始する前の準備段階で複数の観点から評価がなされ、既存の部品よりも性能が優れていることを証明しています。

3Dプリンターをものづくりに活用することで、プロセスや生産品には以下のような革新が期待できます。
・試作、設計が迅速に行える
・高機能な型の製作にともなう生産性向上
・無駄な材料を使わないことで省資源を実現

航空機部品を例にとると、部品が軽量化できれば原材料コストも削減でき一体成型によって安全性も向上するメリットがあります。

EADS社の具体的な成果として、製造にかかる材料消費量は75%削減、CO2は40%減少を実現しています。
環境問題にも配慮しつつ材料コストを減少させられるため、経営の安定化・部品の安定供給が期待でき、長い目で見れば顧客がエアバス社の飛行機を利用する機会を増やすことにつながります。

すべての企業で速やかに応用できるとは限りませんが、3Dプリンターに限らず何らかの方法で製造プロセスを最適化することは、結果を見る限り十分検討する価値のある選択肢です。

 

海外の航空・鉄道業界DX事例2:CEFA Aviationのフライトリプレイアプリケーションの導入

航空会社では、航空機に搭載する運航マニュアルや航空図といった資料を、かつてはパイロットが書類として持ち込んでいました。
その重さはかなりのもので、多い場合は30kgを超えるほどでした。

そこで、2000年初期以降、航空会社各社で導入され始めたのが、電子フライトバッグ(Electronic Flight Bag)というものです。
略してEFBと呼ばれ、現代ではタブレット端末の中に運航に必要なデータが搭載されており、搭乗員・パイロットの効率的な運行管理を助けます。
紙ベースで計算すると、およそ3,000ページ以上が節約できるため、持ち込む荷物の軽量化はもちろんのこと、確認したい情報にアクセスできるスピードも速くなりました。
電子マニュアルも搭載されており、必要に応じてアップデートも可能なため、例えば持ち込む書類を間違えるリスクも低くなりました。

そして、2021年12月、世界最大規模の航空会社であるアメリカン航空は、フライトデータを仮想的に評価できる電子フライトバッグアプリケーションである、CEFA AMS(Aviation Mobile Service)を米国で初めて採用しました。

CEFA AMSを使用することで、パイロットが着陸後に自身のフライトの詳細情報にアクセスし、実施したフライトを自己評価できるようになります。
CEFA AMSを提供しているCEFA Aviationは、パイロット訓練を専門に手掛ける会社です。
CEFA AMSを使用することで、フライトデータを収集・分析することが可能になり、パイロットは自分のフライトデータを確認できるので、パイロットのスキルを高めることに繋がると考えられています。

 

海外の航空・鉄道業界DX事例3:再生可能エネルギー比率100%に向けて

スイス国内を中心に旅客・貨物の輸送を行っているスイス連邦鉄道は、日本同様に正確なダイヤを守って運航している鉄道先進国の一つです。
列車が電化された時期も1930年代と早く、スイスの数ある企業の中でも最大の電力消費者として知られます。

しかし、その一方でスイスには豊富な水力資源があり、スイス連邦鉄道では自家発電による再生可能エネルギーが必要電力の90%をまかなっています。
また、2025年までに再生可能エネルギー比率を100%にすることを目標としており、そのための手段としてソフトウェアを利用しています。

スイス連邦鉄道の目標達成における課題は、等間隔時刻表の採用による電力消費の集中です。
同じ時刻に出発する列車が多いと、その分電力も一気に消費することになりますし、今後も輸送量が増えれば電力消費も増大します。
それを解決するプログラムの中核・中央電力需要管理プラットフォームは、SAP HANAを基盤としており、境界値に到達した場合は切り替えによって負荷を特定し、スイッチを切ることで負荷を抑えます。

SDGsの観点から見ても、新たな電力インフラ構築を検討するよりスマートな解決策と言えるでしょう。

 

航空・鉄道業界DXの海外事例課題

海外のDX事例は、必ずしも日本で同様に実践できるものばかりとは限りません。
スイス連邦鉄道の例は、あくまでもスイスという国の環境だからこそできることであり、資源に乏しい日本で同じことを実現しようとするのは難しい部分があります。
そういった事情から、日本の航空・鉄道業界が生き残るためにDXを進めるならば、まずは収益性を高めること・製造コストを削減することが求められるでしょう。

例えば、顧客ニーズの多様化を踏まえ、CX向上のためにDXを進めることは有効な手段です。
自前でエネルギーを確保することに限界がある日本において、新しい原料による再生可能エネルギーへの転換を模索すること以上に重要なのは、海外からの顧客・資源を日本に集めることです。

同時に、海外から得た資源を大切に使えるよう、製造プロセス最適化を模索し続けることも必要です。
国内で資源を確保するためにDX推進を行うことは重要ですが、それ以上に「手に入れた資源・顧客をいかに大事にするか」が、日本のDXを考える鍵になります。
ヒトや環境への配慮があってこそ、日本のDXは成功率を高められるのです。

 

航空・鉄道業界DXの海外事例まとめ

以上、海外の航空・鉄道業界のDXにつき、海外の事例をいくつかご紹介してきました。
航空・鉄道業界のDXは、日本でも進んでいる・進められそうな事例がある一方で、日本で推進しても効果が限定的な分野も少なからず存在しています。
どのような形でDXを推進すれば業界の発展につながるのかを考えつつ、投資対象を選ぶ必要があるでしょう。

<記事全体の参考URL> 

航空会社のDXについて(トレンド・考察部分の参考):
https://www.dx-portal.biz/dx-airline/ 

先行する欧州、対する日本は?(トレンド・考察部分の参考):
https://digital-shift.jp/startup_technology/210215 

鉄道業界の生き残り戦略(トレンド・考察部分の参考):
https://www.travelvoice.jp/20200601-145696 

KLMオランダ航空の事例紹介(トレンド部分の参考):
https://www.tcs.com/jp-ja/KLM 

エアバス製造の事例紹介(DX事例1の参考):
https://i-maker.jp/blog/3d-print-costcut-428.html 

3Dプリンターによるジェットエンジン部品製造について(DX事例1の参考):
https://i-maker.jp/blog/3d-print-jet-engine-455.html 

3Dプリントされたパーツの紹介について(DX事例1の参考):
https://www.materialise.com/ja/cases/airbus-gets-on-board-3d-printing 

3Dプリンターによるものづくりのメリットについて(DX事例1の参考):
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/57/4/57_257/_pdf 

アメリカン航空のEFB導入について(DX事例2の参考):
https://flyteam.jp/news/article/24079 

アメリカン航空のCEFA AMS導入について(DX事例2の参考):
https://www.businesswire.com/news/home/20211207005103/ja/

スイス連邦鉄道の取り組みについて(DX事例3の参考):
https://www.sapjp.com/blog/archives/20200 

スイス連邦鉄道の取り組みについて(DX事例3の参考):
https://www.youtube.com/watch?v=wTbxhhnRy5o 


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