アジアの経済成長を支えるシンガポールは、総務省の特集でも触れられている通り世界のデジタル競争力ランキング(IMD)で第2位に輝きました。
シンガポールは、知識(ノウハウ)、デジタル技術(環境)、将来性(DX準備)の大きく3つの要因から導き出される世界ランキングで、1位のアメリカに続いて2位となったのです。
これはシンガポール政府による支援が後押しした結果ともいえます。
国の政策としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を重要なものとして位置づけているからです。
本記事では、当メディアを運営するストラテジーテックコンサルティング編集部の海外担当が、シンガポールDXの成功事例をわかりやすくご紹介します。
参考:国際指標におけるポジション 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済/総務省
目次
シンガポールDXのトレンド
シンガポールは、GoogleやMeta(Facebook)といった巨大ITテクノロジー企業が進出するアジア太平洋地域のデジタル技術ハブ国家でもあります。
日本やオーストラリア、中国、韓国、タイ、インド、マレーシア等を含むアジア太平洋に位置する国々の中心的存在となっています。
さらにAIやIoTに必要不可欠な5Gの環境整備へ積極的に取り組むだけでなく、DXに関わるデジタル人材の育成にも注力している先進的な国家です。
このDX人材育成は企業のみならず大学の協力を受け、産学連携で体制が整えられつつあります。
特に製造業や小売業におけるAIを活用したイノベーションに積極的で、シンガポールをアジアの「AIイノベーションハブ」とする動きも活発です。
早速、実際のDX事例をみていきましょう。
参考:シンガポールはDX 推進の一大拠点/シンガポール経済開発庁(EDB)
シンガポールDX事例1:5Gが変えた小売業(デジタル・ヒューマン接客)
シンガポールテレコム(Singtel)は、ステラ(Stella)と名付けた人工知能を搭載したデジタル・ヒューマンを導入した無人店舗を展開していることで知られています。
無人店舗をデジタル・ヒューマンが支えるこの未来型接客は、5G環境によって実現しました。
特徴は、非接触で365日稼働でき、且つフレンドリーな人間味のある会話ができる点です。
シンガポールテレコムはこの「UNBOXED」と呼ばれる店舗で、消費者や業者向けに5Gが体感できるサービスを提供しています。
このようにB2CだけでなくB2Bも考慮した営業スタイルは、他業界にも通用するのではないでしょうか。
実際にポップアップ店舗では、ステラとスマートロボットのスタンレー(Stanley)がコミュニケーション(通信)をとれるように設計されており、データ分析によって店内でのソーシャルディスタンスを維持することも可能となりました。
Withコロナにとどまらず、アフターコロナに向けた次世代小売店舗のニューノーマル・スタイルといえるでしょう。
参考:Singtel unveils 5G services at pop-up retail store/Singapore Business Review
参考:シンガポールテレコム -Singtel
シンガポールDX事例2:セキュリティを重視したDX(DBS銀行)
次にご紹介するDX事例はシンガポールの銀行、DBS銀行の有名なケーススタディです。
既にいくつかのメディアに多言語で取り上げられているため、アジアのDX事例や金融業界DX事例としてご存知の方も多いでしょう。
ここではDBS銀行がDXに注力した背景や現状から触れていきます。
現状、シンガポールのDBS銀行の規模はそれほど大きくないものの、競争力では上位を維持しています。
その背景には、中国のアリペイやWeChatペイの存在があり、DXに取り組まなければ競合に打ち勝つことはできないと判断した経緯があります。
そこでデータとトランスフォーメーションの最高責任者はFuture of Workと名付けたチームを率いて、用いたテクノロジーそのものの存在が提供するサービスに溶け込み、境界がわからなくなるくらい人間的な体験の創造を実現することを目指しました。
最初に、リモートワークに切り替わったことでセキュリティ対策を工夫することにしました。
悪質な行為から従業員と顧客を守り、機密情報への適切なアクセスを確保することに努めました。
続いて、リモートワークが長く続くと問題になってくる、社員の心理状態を把握する課題へ取り組みました。
対面でのやりとりが少ない点を補うべく、センチメント分析ツールを導入することで、自然言語処理アルゴリズムを活用した社員の特定の企業等に対する心理分析に着手したのです。
そのおかげでリーダーはダッシュボードによってチームメンバーの心理状態を観察し、注意点を把握することができるようになりました。
さらに社内アプリを社員が評価できる体制を整えました。
リモートワークをする中で、より多くのアプリを使用するようになったためです。
それを社内のUI、UX改善に活かすのです。
また、会議ではチェックイン制度を導入し、開始時の心理状態を記録、管理することで分析できるようにしました。
上記のようなツール導入や環境整備を行った結果、ポジティブな心理状態の比率が上昇し、社員の9割以上がリモートワークを遂行する上で使用するデジタルツールに満足していると回答しました。
この結果は、人間である社員自身の心境の変化を重視する方針でDXを推進して成功した事例といえるでしょう。
参考:3 Tactics to Accelerate a Digital Transformation/Harvard Business Review
シンガポールDX事例3:APACで連携したグローバルDX(B2Bソフトウェア)
グローバル展開しているコンサルティング企業のプロティビティ社(Protiviti)のシンガポール事例をみてみましょう。
プロティビティ社のクライアントは、オーストラリアに本社を置きB2Bソフトウェア開発を行っているSaaS企業のアトラシアン社(Atlassian)です。
シンガポールは公用語に英語を含むため、オーストラリア側にとって英語を公用語としない他のアジア諸国よりも連携しやすいことが伺えます。
その点も他国のコンサルティング会社であるにも関わらず、プロティビティ社が選ばれた一因なのでしょう。
AWSとも連動するクラウドホスティング・インフラストラクチャを世界各国へ提供しているアトラシアン社は、顧客に信頼され選ばれ続けるために、コンプライアンスを強化し企業活動の透明性を重視することが大切だと考えました。
そこでプロティビティ社のITに関連するリスク管理やコンプライアンスに関する専門的な知見と、アトラシアン社の変化を好むイノベーション文化を融合させることを試みたのです。
この時の課題は、グローバル規模でコンプライアンス要件に対応するため、業務を遂行する上で欠かせないシステムへのアクセスや変更記録を管理できるよう工程全体をデザイン設計することでした。
両社は連携を強め、製品や社内システムを管理し、さらにそれを評価することにしたのです。
アトラシアン社にはもともと変化を好む企業文化が根付いており、この点が協力体制と問題解決において有利に働きました。
コンプライアンスに配慮しつつ変化を機敏に受け止め、業務管理を自動化していくことはプロセスの短縮にも役立ちました。
既存のソフトウェア開発に対してコンサルタントの支援を受けながらコンプライアンス体制を整えた結果、顧客だけでなくセキュリティやプライバシーの信頼性をより重視する株主の期待にも応えられるようになったのです。
SaaS企業の持つテクノロジーと、コンサルティング企業のコンプライアンスに関する知見を組み合わせてプロセスの一部を自動化し、当初の目的であったソフトウェア開発に関わるコンプライアンスを強化できた成功事例です。
既にテクノロジーに強いクライアントの場合、コンプライアンスやセキュリティといった側面を補い、支援することもDXコンサルタントの役割のひとつといえるでしょう。
シンガポールDX事例まとめ
事例1では、無人店舗に常駐するAIを搭載したデジタル・ヒューマン接客についてご紹介しました。
5G環境を整備し、AI、IoTによるイノベーション体験をB2BとB2Cの両方へ向けて提供することで、アジアのAIイノベーションハブとしての役割を担っていることがわかります。
事例2では、銀行のDX事例に触れました。
高度なセキュリティが要求される環境で社員の満足度が得られるリモートワークを実現したアジアを代表するケースです。
ポイントは、先進的なテクノロジーをどんなに導入しても人間味を常に忘れないことでした。
事例3では、地理的・言語的背景から連携が強いシンガポールとオーストラリアにおけるケーススタディをAPAC事例としてご紹介しました。
ソフトウェア開発企業にとって、プロセスの一部を自動化することは非常に小さな変革かもしれませんが、コンプライアンスに強いコンサルティング企業の支援を受けることで課題を解決することができました。
このようにDXでは多様なバックグラウンドを持った人材が求められています。
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