個人事業主になるなら、簡単な手続きだけで済みます。しかし個人で事業を運営していくには、さまざまな知識が必要です。なぜなら独立すると、今まで会社がやっていたことを自分でやらないといけなくなるからです。
そういった知識を持っていないと、独立してしばらくの間は、事業をうまく運営していくことが難しいでしょう。個人事業主になってから身につけるにしても、独立したばかりだと多忙になりがちなので、勉強するのも大変です。
なので、独立前にやるべきことは済ませておくのがオススメです。本記事では、独立する前に知っておいた方がいい知識や、事前準備としてやっておくべきことを紹介します。また、個人事業主になるための手続きもあわせて説明します。
この記事を読めば、個人事業主になる前に必要な情報がわかるので、開業から独立後の事業運営までスムーズに行えるでしょう。個人事業主になることを検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主とは?
そもそも個人事業主とは何なのでしょうか。「改めて問われると説明が難しい」という方もいるかもしれません。そこで、まずは個人事業主とは何なのかを解説していきます。会社員や法人と比べてどんなメリットがあるのか、また最近よく聞くフリーランスとはどう違うのかなどを解説していきます。
会社員との違い
個人事業主と会社員には「雇う側」と「雇われる側」という違いがあります。雇用する側になるのが個人事業主で、会社に雇われるのが会社員です。両者を比べると、個人事業主のメリットは以下の通りです。
- 働く場所を自由に決められる
(毎日の出勤をせずに、在宅で仕事することも可能)
- 働く時間を自由に決められる
(自分の都合に合わせた働き方を選べる)
- 能力に応じて収入が増える
(自分のスキルを磨くほど、単価の高い仕事を受けられるようになる)
一方でデメリットとしては次のようなものがあります。
- 収入が安定しない
- 税金などの手続きを自分でしないといけない
法人との違い
法人とは、法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織のことで、株式会社などのことを指します。一般に会社を辞めて独立するときは、個人事業主として事業をはじめるか、法人を設立するかの選択肢があります。
両者を比べたときの個人事業主のメリットは以下の通りです。
- 開業の手続きが簡単
- 経理作業にかかる手間が少ない
- 利益が少ないうちは税負担も少なくなる
一方でデメリットとしては次のようなものがあります。
- 社会的な信用度が低い
- 資金調達がしやすい
- 利益が増えると税負担が多くなる
フリーランスとの違い
個人事業主とフリーランスの違いは、「開業届」を出しているかどうかです。
フリーランスとは、特定の会社組織などに属さずに仕事をする働き方を意味します。一方で、個人事業主は、株式会社などの法人を設立せずに個人で事業を行う人のことです。
両者は似ていますが、フリーランスが「働き方」を指しているのに対して、個人事業主は「税務上の区分」を意味しているという違いがあります。
個人事業主が知るべき基礎知識
個人事業主が知っておくべき基礎的な知識は以下の3つです。
- 法務
- 会計・簿記
- マイナンバー
個人事業主になると、会社員のときと違って本業以外の雑務が増えます。そういった雑務をこなすには「法務」「会計・簿記」「マイナンバー」の知識が必要です。
「法務や会計はどうやって学んだらいいの?」とお感じの方は、ビジネスに活用できる資格の取得がオススメです。以下の記事で詳しく紹介しています。参考にしてみてください。
法務
法務とは法律に関する業務のことです。たとえば、以下のような業務があります。
- 契約書のチェックや作成
(「こちらの不利になる契約条件ではないか」「契約書に不十分な部分はないか」などを検討)
- 事業の法的手続き
(開業届や青色申告承認申請書の提出など)
- トラブルへの対応
(顧客からのクレームや、取引先との紛争)
個人事業主になるとこれらの業務も行わないといけません。また訴訟などのトラブルが発生した場合、独立以前なら会社が訴えられますが、個人事業主だと本人が訴えられることになります。
なので、トラブルを未然に防いだり早期に解決したりできるよう、法律に関する知識は必須だといえます。
会計・簿記
個人事業主になる前に、会計・簿記の知識を身につけておきましょう。以下のメリットがあります。
- 青色申告ができるようになる
(最高65万円の特別控除を受けられる)
- 税理士への依頼コストを削減できる
(自分で帳簿を作成したりできるので依頼する必要がない)
※青色申告を利用するには、一般的に複式簿記による帳簿の記帳が必要です。
参照:)「国税庁 青色申告制度、4青色申告の特典」
マイナンバー
個人事業主にとってマイナンバーが関係してくるのは、開業届や確定申告、税金の手続きにおいてです。
開業届や確定申告にはマイナンバーの記入が必要です。
また従業員を雇っていて給与を支払ったり、弁護士や税理士などに外注して報酬を支払ったりした場合は、源泉徴収義務者になります。そ
うなると、源泉徴収票や支払調書の作成時にマイナンバーを記入するので、従業員や発注先からマイナンバーを提供してもらう必要があります。
ただし、以下の場合なら源泉徴収義務者にはなりません。
- 従業員を雇っていない
- 常時2人以下のお手伝いさんなどのような、家事使用人だけに給与を支払っている場合
- 従業員を雇っていない人が、弁護士や税理士などに外注して報酬を支払う場合
個人事業主として独立する前の事前準備
資金の確保
独立してすぐには、予定していた通りの利益が出ない場合も考えられますので、想定よりも余分な資金を確保しておきましょう。最低でも半年から1年くらいは、収入がなくても生活できるくらいの資金があると安心です。
不動産の賃貸やクレジットカードの契約
独立前に、不動産の賃貸やクレジットカードの契約は済ませておいてください。なぜかというと、個人事業主は収入が不安定なため信用を得られにくく、契約できない可能性があるからです。なので、社会的に信用度のある会社員のうちに、賃貸やカードの契約をしておきましょう。
仕事用の口座開設
個人事業主としてやっていくなら、仕事用の口座を開設しておくのがオススメです。独立すると自分で税金の計算を行う必要がありますが、仕事用とプライベート用の口座を分けることで、計算がやりやすくなります。
たとえば、確定申告での作業が楽になります。確定申告では、事業での収入のみを申告する必要があるので、口座を分けておけば事業に関連する収入が一目でわかるからです。
特に独立したばかりは多忙になりがちです。余裕のある会社員のうちに、口座開設などやれることはやっておきましょう。
個人事業主になるために必要な手続き4つ
個人事業主になるのに必要な手続きは4つあります。
①開業届を提出する
個人で事業をはじめるには、開業届を提出する必要があります。以下に概要を示します。
- 提出時期
(事業の開始から1か月以内)
- 開業届出書の入手方法
(税務署、または国税庁のWebサイトからダウンロード)
- 記入内容
(納税地、氏名、マイナンバー、職業、開業日、所得の種類、青色申告承認申請書の有無、事業の概要など)
- 提出先:税務署
- 提出方法:税務署に持参、または送付
開業届の書き方がよくわからない場合は、税務署の職員の方に聞きながら記入するといいでしょう。また、開業届の詳細や用紙のダウンロード、書き方などは以下のURLを参照ください。
②青色申告承認申請書を提出する
青色申告を行うのに必要な書類を提出しましょう。個人事業主になるために必須ではありませんが、開業届を出すタイミングで一緒に提出するのがオススメです。
青色申告とは所得税の申告の一種です。所得税に関しては、納税者が自分の所得を把握して申告し、自主的にその所得に対する税金を納めることが求められています。なので、このような青色申告者には、最大で65万円までの特別控除が受けられるなどの優遇措置がとられています。
手続きの概要を以下に示します。
- 提出時期 ※開業届と同じタイミングがオススメ
(事業の開始から2か月以内、1月1日から15日の間に開業した方は3月15日まで)
- 青色申告承認申請書の入手方法
(税務署、または国税庁のWebサイトからダウンロード)
- 記入内容
(納税地、氏名、職業、所得の種類、簿記方式、備付帳簿名など)
- 提出先:税務署
- 提出方法:税務署に持参、または送付
開業届と同様に、書き方がよくわからない場合は、税務署の職員の方に聞きながら記入するといいでしょう。また、青色申告承認申請書の詳細や用紙のダウンロード、書き方などは以下のURLから確認できます。
③国民健康保険への加入
会社員を辞めて独立した場合は、国民健康保険への切り替え手続きが必要です。手続きは退職日から14日以内に、市区町村の役所で行ってください。
健康保険に入っていないと、医療機関にかかったときに全額自己負担になって、大変な損失を負う可能性があります。忘れずに手続きしておきましょう。
④国民年金への加入
独立した場合、国民年金への切り替え手続きもしてください。
国民健康保険と同様に、退職日から14日以内に、市区町村の役所で手続きを行いましょう。
手続きを怠って税金を納めていないと受給できる年金額が減ったり、長期にわたり滞納すると強制徴収の対象者になったりします。忘れずに国民年金に加入しておきましょう。
個人事業主から法人になることも可能
個人事業主として独立してから、法人化することもできます。
会社員を辞めて独立しようと考えている方のなかには、個人事業主と法人のどちらを選ぼうか悩んでいる方もいるかもしれません。
法人として独立すると「社会的な信用度が高い」「節税しやすい」「資金調達が楽になる」などメリットが大きいからです。また利益が増えると、法人の方が税負担も少なくなります。
しかし後からでも法人化は可能なので、独立したばかりであまり利益が見込めない場合は、まず個人事業主になるのがオススメです。一般的には、事業の利益が800万円を超えたくらいで法人化するのがいいといわれています。
個人事業主になるには?まとめ
今回は、個人事業主になる前に知っておくべきことや、なるための手続きについて解説しました。独立後のスムーズな事業運営には、事前の準備が大切です。
法務や会計・簿記、マイナンバーについて勉強しておいたり、資金の確保やクレジットカードの契約、仕事用口座の開設を済ませましょう。
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