本記事では、メタバースを医療分野に活用した日本の事例を4つ紹介します。
近年急成長しているメタバース技術は、長年医療業界において大きな課題であった地域格差の是正や医療技術の発達に大きく寄与する可能性を秘めています。
その用途は遠隔手術や医療研修、リハビリなど様々です。
IT技術の導入には他国に後れをとった日本でしたが、既にメタバースの医療分野への活用は始まっています。
後段では、IT人材不足などの導入への課題も併せて紹介しますので、メタバース活用の可能性について知りたい方は、最後までお読み下さい。
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目次
医療分野においてメタバース活用が注目される理由
医療分野においてメタバース活用が注目される理由は、大きく次の2つです。
- 医療技術の発達につながる
- 医療の質の地域格差がなくなる
それぞれ詳しく解説します。
医療技術の発達につながる
メタバース技術を活用することで、技術研修や手術の疑似体験、精神的な症状への多面的なケア、空間認知を用いたリハビリなど様々な観点から医療技術の発達に繋げることができます。
他にも、患者の家族への症状の説明や匿名性を保った状態での医師への相談など、間接的な側面においても対応を充実させることが可能です。
メタバースの導入によって、実践によってしか培われなかった感覚の部分や、五感を活用した治療法の確立といった新たな医療技術の発展を目指すことができるようになります。
医療の質の地域格差がなくなる
医療業界において、医師の地域偏在は長年の問題です。
厚生労働省が公表している「医師偏在対策について」によると、平成20年度以降、医学部定員を大幅に増員するなど医師数の地域格差への対策は取られてきましたが、依然として大都市に医師は集中し、地方都市や過疎地域では医師の減少が続いている状況です。
地方都市においては公共交通機関が都市部に比べて整っていないこともあり、医師数の減少は都市部の医療機関とのアクセシビリティの格差をさらに拡大させてしまいます。
メタバースを活用した医療が普及することによって、遠隔での診療や手術が実現し、医療の質の地域格差を是正することが期待されています。
参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000194394.pdf
メタバースの活用事例
日本における医療分野でのメタバース活用事例として、本記事では次の4つを紹介します。
- VR注射(イマクリエイト)
- 手術支援ロボ(メディカロイド)
- メンサポドクター(comatsuna)
- リハビリ(mediVR)
それぞれ順番に見ていきましょう。
VR注射(イマクリエイト)
イマクリエイト株式会社は、言語化しづらく感覚的な指導になってしまう「動き」という情報の伝達を、メタバース上でシェアできるプラットフォーム「NUP(ナップ)」を開発しました。
これによって、医学部生に対して注射技術をVR上で共有することで、お手本をみながらいつでも何度でもトレーニングできる環境を実現。
他にもワクチン接種を行える人材確保のために、元医療従事者への研修などにも導入されることが見込まれています。
実際の患者に対して何度も注射できないことや、消耗品の補充が必要なことから、回数や頻度に制限のあった注射の研修が、メタバース技術によって制約なく行えるようになっています。
参考:https://ima-create.com/nup/
手術支援ロボ(メディカロイド)
株式会社メディカロイドでは、手術支援ロボを開発し、医師・患者の双方の負担を減らした手術と、遠隔操作による離れた場所からの手術を実現しました。
医師はロボットに搭載されたカメラからメタバース上に表現された3D画像を見ながら、ロボットを通して手術を行います。
人間よりも細かな動きが可能なロボットを使うことで、手術部を大きく切開する必要がないため、患者の体にかかる負担を軽減することができます。
その上、切開箇所を最小限に抑えられるため手術時間の短縮にもつながり、医師の負担軽減にもなります。
メタバース技術を導入した手術支援ロボの活用によって、医師は離れた場所から手術を行うことができるため、遠隔操作による場所を問わない手術も可能になりました。
参考:https://www.medicaroid.com/product/hinotori/
メンサポドクター(comatsuna)
株式会社comatsunaは、メタバースを活用したメンタル支援サービス「メンサポドクター」をリリースしました。
メンサポドクターは、相談者がメタバース上でアバターを介して産業医等へ相談ができるようにしたことで、匿名性を担保したままの相談や対面での会話が苦手な方への配慮を可能にしています。
従来の産業医面談よりも気軽に利用できるようになったことから、不調をきたす前に相談できるなど、メンタル不調や離職を予防する効果もあります。
リハビリ(mediVR)
株式会社 mediVRは、認知処理能力を鍛えるリハビリテーションサポート機器として、メタバース上で、ゲーム感覚で取り組める「カグラ」を開発しました。
カグラでは、VRゴーグルを着用し、メタバース空間でゲームを行いながら姿勢バランスや重心移動のコツ等をつかむためのリハビリを行えます。
これによって、立ったまま歩行することが困難な方に対して、言語での説明が難しい歩行動作のポイントを体感しながら学んでもらうことが可能です。
参考:https://www.medivr.jp/product/
医療分野にメタバースを活用する課題
医療分野において、メタバース技術を活用する上での課題は大きく次の3点です。
- セキュリティの向上
- 安全性の確保
- IT人材の不足
それぞれ詳しく解説します。
セキュリティの向上
メタバースを医療分野に活用する上で大きな問題となるのがセキュリティ面です。
メタバースはオンライン上に作られる仮想空間であるため、サイバー攻撃に対するセキュリティを強固にする必要があります。
特に医療業界が扱う情報は患者の個人情報として重要性が高いものです。
せっかくメタバースによって医療技術が進歩しても、セキュリティ面への不安を患者が持つようになり施術を拒んでしまっては、技術を活用することができません。
外部からの侵入を許さないインフラ構築はもちろんのこと、技術の進歩に法整備が追い付いていない現状の是正なども求められます。
安全性の確保
ロボットの遠隔操作など、通信技術を用いて医師が直接医療行為を行わない場合、通信エラーや機器の動作不良などといったトラブル対策が必要です。
医療行為においては、数ミリの違いでも重篤な事態を招く可能性があります。
医師の動作とロボットの動作がリンクしないといった事態は、患者の命を脅かす危険なものであるため、安全性の確保は急務です。
また、導入初期は多くの患者が遠隔手術などのメタバース技術の活用に難色を示すことが想定されます。
安全性のアピールについてもしっかり行わなければなりません。
IT人材の不足
メタバースを活用した医療を普及させる上で、新技術の開発はもちろんのこと、これまで解説してきたセキュリティ面や安全性の課題解決が必要です。
しかし、これらには十分なIT人材を確保しなければなりません。
現在、日本においては、どの業界においてもIT人材が不足しているのが現状です。
独立行政法人情報処理推進機構が公表している「DX白書2021」では、DX推進を担う人材について不足していると回答した企業の割合は76.0%に上ります。
これは先進国の中でも非常に深刻なものであることが経済産業省の「デジタル人材育成プラットフォームの取組状況について」でも指摘されています。
同資料では、人材不足だけでなく企業及び個人の学習に関する投資の低さについても指摘があり、IT人材の不足は今後もすぐには改善の目途が立たない状況です。
参考:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/qv6pgp0000000txx-att/000093706.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/006_03_00.pdf
まとめ
今回は、日本におけるメタバースの医療分野への活用事例を紹介しました。
メタバースの汎用性は医療分野においても非常に高く、今後も新たな技術革新が期待されます。
しかし一方で、通信技術やロボットを活用することから様々なリスクも挙げられている上に、解決にあたるためのIT人材が不足している状況が課題となっています。
需要は強いにもかかわらず、人材供給が追い付いていない市場のため、メタバース関連の技術を持っているエンジニアの方にとっては、高額案件を獲得できる大きなチャンスとも言えるでしょう。
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