RPA(Robotic Process Automation)とは、一定のプログラムに従って、ロボットが経理や会計などの事務業務を代行する取り組みやその概念のことです。
RPAを導入することで、人間に代わり単純作業を正確に実行してくれるため、業務効率化を図ることが可能です。
AIとの違いとして、RPAには自己学習能力がありません。
RPAは予め設定されているルールに従って作業を行います。
一方で、AIは自己学習能力が備わっている為、指示した作業だけでなく、蓄積されたデータの分析などを行い、見直し・改善なども行うことができます。
人口減少が進む日本において、RPAは様々な業界の多くの企業に導入されていますが、業務の特徴が違うため、業界ごとのRPAが必要とされています。
それに伴い、導入するポイントも異なってきます。
本記事では、RPAの活用事例を業界別に紹介し、業界別の導入される理由とポイント分かりやすく解説します。
まずはRPAの概要や種類を知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
目次
銀行業界のRPA導入事例
銀行業界は、人々が生活していく上で必要不可欠となるお金の預入れや引き出し等を行っており、また、一人が複数の銀行を利用している場合もあることから、金融業界の中でも利用者数が多い事業です。
銀行業界の業務は、引き出しや預け入れ、振込などの他、顧客情報管理や資金管理等、多く利用される業務が定型化していることが特徴です。
りそな銀行
りそなグループでは、グループ全体で業務効率化を目指しています。
2017年にはRPAの施行導入、りそなHDのデジタル化推進部へ「AI・RPA推進チーム」の設置を行い、RPA活用を推進しています。
りそなグループでは、主に以下の3点が問題となっていました。
- 大量の紙の残存
- 複雑な業務プロセス・オペレーション
- 事務量と事務人員のギャップ
RPA導入によって、本部業務やセンター業務など、事務作業の自動化を行いました。
まずは単純事務や、ビジネスプロセス管理ツールとRPAの連携、ロボットアームとRPAによる勘定系端末の自動操作など、様々な業務の自動化を行いました。
また、RPAを含むシステムを社内で内製化しており、外部から常駐SEを招き、各部門の担当者へ指導することにより、担当者自らが必要な時に必要なシステムを開発できる環境を整えています。
さらにRPAの導入に加え、ノーコード・ローコード開発ツールも導入し、行内に根強く残る紙ベースの業務のシステム化を進めました。
その結果、年間100万時間の業務削減を達成しました。
出典元
・「りそなグループのデジタル化戦略」りそな銀行
・「りそなグループがRPAで年間130万時間の業務削減」Pleasanter
PayPay銀行
インターネット専業銀行のPayPay銀行では、モニタリングセンターにRPAを導入しました。
モニタリングセンターでは、口座開設前後の監視を主に行い、センターが疑わしい取引だと判断した場合、人の目によって確認を行い、トラブルがあった際には口座凍結などの業務も行っていました。
さらに、デビットカードについての業務も行っており、カードの不正監視、お客さまからの問い合わせ対応等、多岐に渡る業務を行っていました。
モニタリング業務では、不正があった際に取引停止の対象者をデータで抽出し、顧客情報を記した通知書を印刷する業務を自動化させました。
デビットカード業務では、カード利用に不正があった際に、不正を検知し、行内システムに登録する作業を自動化させました。
不正のモニタリングや事務作業等は、単純作業ではありますがこなす量が多い業務です。
モニタリングセンターではそういった業務に特化してRPAを導入し、業務効率化を図りました。
出典元:「PayPay銀行の事務作業自動化について」USAC SYSTEM
銀行業界にRPAを導入する際のポイント
銀行業務でRPAの導入を成功させるには、定型業務且つヒューマンエラーが起こりやすい業務を洗い出してから導入を始めていくことです。
例として、大量データを扱う事務作業が挙げられます。
銀行業界では、上記のような顧客情報を扱うパワー業務が多くあり、名前の漢字ミスや、金額の桁数ミスなどの細かいミスが起きやすいです。
他にも、事例にもあったように、不正発見等を含む厳格な監視業務も必要とされています。
これらの定型的な注意力が長時間必要とされる業務には、RPAを上手く活用することで、ヒューマンエラーを防止することができるでしょう。
自治体のRPA導入事例
日本の人口数の減少に伴い、自治体の職員数も減少傾向にあり、今後も減少が見込まれています。
それに伴い、民間企業のみならず、自治体においてもAIやRPA等のICT技術を活発に取り入れることが求められています。
総務省によって令和4年9月に公表された、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】」にも、「自治体のAI・RPAの利用推進」が挙げられています。
各地方自治体は大手企業と比べて、規模が小さい上に職員数も少なく、経営資源が限られています。
そんな中で、プログラミングの知識を必要とせず、持続可能な行政サービスを提供し続けていくためにも、RPAの利用が重要視されています。
出典元:「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 2.0 版】」総務省
【東京都】狛江市
狛江市では、国民健康保険のレセプト(診療報酬明細書)の点検作業にAIを活用し、点検結果の入力作業をRPAで自動化させました。
レセプト点検結果の入力作業は、レセプト自体の構造や項目に関しての専門的な知識が求められる作業にもかかわらず、反復作業であるという特性がありました。
レセプト業務において、過誤や再審査があった際の1件あたりの点検・入力作業時間は、RPA導入前が20時間前後を要していたのが、導入後はわずか5分で完了させることができました。
その結果、東京都狛江市では、AIとRPAを組み合わせることで、人的ミスを減らし、導入した業務数が1業務であるにもかかわらず、導入効果として年間4212時間の削減時間をたたき出しました。
【千葉県】市川市
市川市では、こども福祉課の子ども医療返納額内訳作成業務と、児童手当・年金情報照会業務にRPAを導入しました。
子ども医療返納額内訳作成業務では、対象者の課税状況が変更になった場合に、助成金を返納する必要があり、その際に必要となる子ども医療返納額内訳の作成にRPAを取り入れました。
従来は、対象者の診療回数と返納額を1件ずつ手入力で行って納付書を発行していました。
そのため、人件費や労力が必要となっていたのですが、EXCELでデータをリスト化し、返納額の入力から納付書のデータ作成までをRPAで自動化させました。
その結果、年間288件の作成に対して、432時間の削減が見込まれています。
他にも、児童手当に関する年金情報照会の業務にもRPAを取り入れました。
こちらも、事前にエクセルでデータをリスト化し、RPAで連続処理させました。
それにより、情報照会要求の作業30件に対し、90分かかっていた作業が15分まで短縮されました。
出典元:「千葉県市川市のRPA導入事例」株式会社大崎コンピューターエンヂニアリング
【福岡県】糸島市
糸島市は、財政・会計・財務の分野の財務会計の支出伝票作成業務にRPAを取り入れました。
糸島市は、RPAのシナリオ作成を自治体で行い、さらには導入対象をほぼ全庁に広げ、効果の積み上げに成功しました。
糸島市では、自治体内部でのRPAに関するスキルを持ち合わせる職員の育成を行い、どの業務にRPAを導入するかについて、業務を根本的に見直し、フローや情報システムについての検討を行いました。
そうして、まずは業務時間削減効果が高いとされる財務会計関連業務にRPAを導入しました。
RPA導入の流れとしては、手入力によって入力された請求リストを元に、RPAを活用して財務会計を統括するシステムに転記・登録を行います。
そして、RPAが支出帳票を出力を行います。
その結果、全国的にみても職員数が少ない糸島市ですが、職員の政策立案に必要な時間が増加し、年間作業時間を70%削減できました。
さらに、シナリオ作成やRPAの導入に伴い、自治体内で人材育成ができたため、今後のRPAの活用にも役立ちました。
自治体にRPAを導入する際のポイント
一言で自治体といっても、住民情報関連の分野や、健康や福祉の分野、税に関する分野など、様々な業務があります。
そのため、どの分野に導入するかをまずは見定める必要があるでしょう。
効果を得やすい分野や業務の例としては、外部機関などから送付された、各自治体の住民データの転記が挙げられます。
例えば、住民税情報の集約や、自動車税の処理などで活用できます。
作業量としては多いが、作業自体は単純である作業がRPA活用に向いています。
このような作業を洗い出して、正しく導入すると効果が見えやすいでしょう。
BtoCが多い自治体の業務の中には、窓口での住民対応や説明などの人間しかできない業務もあれば、データリストの作成や転記など、RPAを用いて機械化できる業務もあるので、まずは業務の洗い出しを行ってみることをおすすめします。
製造業のRPA導入事例
製造業の課題として、若手人材を含む労働者不足が挙げられます。
また、技術のノウハウが年配労働者に属人化していることから、技術の継承先が限定され、正しい技術が正しく継承されない可能性もあります。
これらの問題を解決するにも、ノウハウを取り込んで人の手を介さずに作業を行えるRPAは、製造業界にとっては大きな働き手になるでしょう。
他にも、製造業と聞くと、工場など現場での加工や生産、組み立て作業を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、その裏にはデータ入力やデータ管理事務作業、在庫発注業者や卸売業者との連携業務などがあります。
このような事務作業には定型業務が多く、事務作業を効率化して現場との連携や直接利益につながる業務に注力すると考えている企業が多いと考えられます。
【食品メーカー】サッポロビール
ビールメーカーのサッポロビール株式会社は、ほぼ毎日、販売実績のデータを手作業でダウンロードしていました。
さらに、ダウンロードに時間がかかるため、作業に漏れが出てしまったり、データを保存する場所を間違ってしまったりと、単純ミスが起きていました。
そのため、主力となる商品以外はダウンロードの頻度を下げるという対策を行っていました。
そこで、POSデータのダウンロード作業RPAによってを自動化させました。
導入したRPAは、定時になるとパソコンの電源が自動的に入り、ブラウザ操作を自動化させてPOSデータのダウンロードを開始するシステムです。
導入の結果、1社につき20~30分かかる作業を、十数企業分実施していたダウンロードを、完全自動化させることに成功しました。
人の手を介さずに、ブラウザを完全自動化しているため、ダウンロード作業に張り貼り付いて作業していた労力を他の作業に回すことができました。
また、主力商品のみならず、全商品のPOSデータを毎日取得できるようになりました。
出典元:「サッポロビールのデータダウンロード自動化について」USAC SYSTEM
【医療品メーカー】日本新薬
製薬会社の日本新薬株式会社では、DX推進の初めの一歩としてグループ全体でRPAを推進しています。
代表的なロボットの例としては、生産企画部門に導入されたロボットです。
主に、調達から販売に至るまでの一連の流れである、サプライチェーンにおける生産・出荷・在庫などのステータス情報を見やすいように可視化させました。
作成した情報を使って、それぞれの製品への分析の時間を長く確保でき、業務時間が短縮されて遅延が減り、連携もスムーズになりました、
また、日本新薬株式会社は、RPAの今後の活用を見通して、RPA開発者の育成にも力を入れています。
業務を行う社員が、独自でRPAを開発に携わることで、より現場で使いやすいロボットの作成に注力しました。
日本新薬は、DX推進の一環として、今後もRPAの活用を継続するため、RPAのe-ラーニングや、資格取得支援、社内コンテストなど実施し、全社を通してRPAの推進を試みています。
【自動車メーカー】TOYOTA
日本の誇るTOYOTAのRPA推進は、2017年からスタートしました。
その翌年には、情報システム部にてシステム開発を着手させました。
トヨタでは、「カーカンパニー」から「モビリティカンパニー」 に、企業の大改革を行うべく、自動運転やカーシェアリングの分野への参入など、様々なチャレンジを行いました。
それによって発生する、現状のトヨタの人的資源とのギャップを、RPAで埋めることをまずは目標としました。
導入したRPAは、文書の電子化、部を超えた業務の標準化・見える化などの、全社を通した業務改廃促進を行いました。
結果として、RPAによって業務改廃が実現できて社員のモチベーションにはつながりましたが、一方で基幹システムやWebブラウザなどの周辺環境のサポートが足りていないことが分かり、今後もシステムをアップデートしていく見込みです。
出典元:「トヨタのRPA導入に関わる生産性向上」TOYOTA
【食品メーカーEC】カゴメ
食品メーカーのカゴメでは、ネットショップなどのeコマースに特化したEC特販グループの2つの業務へRPAを導入しました。
1つ目は、受注した商品情報のダウンロード業務です。
カゴメでは、商品を受注した際、ECサイトで受注した商品の情報をCSVやExcelにてダウンロードし、社内のシステム内に取り込むという業務を行っていました。この一連のデータフローを自動化させました。
2つ目は、商品ごとの申請を入力させる業務です。
ECサイトにて、商品ごとに納品予約や販促申請を入力する業務を、RPAにスケジュールを設定し実行させました。
RPAによってこれらの業務を自動化した結果、残業時間を年間で100時間ほど削減することができました。
製造業にRPAを導入する際のポイント
事例にもあったように、製造業は、BtoBの会社が多いです。
それに伴い、バックグラウンドでの定型業務や、ボトルネックとなっている業務をビジネスの根本から見直すことが成功の鍵です。
業務全体を見直すためには、物の調達・製造・卸売という一連のサイクルである、サプライチェーンを可視化する必要があります。
それぞれの在庫数の管理など、商品の状態を見える化することがRPA導入のカギとなります。
また、請求書業務やECサイトに関わる業務などにおいても、RPAツールを導入することで業務の効率化に繋がるかもしません。
RPAの導入が抱える課題
RPAの導入に際して注意しなければならない点は、RPAは自身で判断を下すことができないという点です。
そのため、どの業務までRPAが代行し、どの業務から人間が行うのかを考慮した上で導入しなければなりません。
交通費などの精算業務にRPAを導入する場合、申請内容を元にそれぞれの申請された金額が正しいかどうかの判別を代行させることが可能です。
しかし、ここでは何を基準に正しいと判断させるのかが問題となってきます。
最も安い運賃を正しいと定義した場合には、それに見合わないものは誤っていると判断されますが、交通費精算においては通勤時間との兼ね合いも考慮しなければなりません。
また、駅名の誤記入など、例外的な事象に関してはRPA自身で判断することはできません。
RPAを導入する際は、発生し得る例外的な事象を予め考慮した上で、処理手順を事前に設定し、どの程度の業務まで運用していくか見極めていくことが重要になってきます。
成功事例に学ぶRPA活用の要諦
RPAを有効に活用する上では、社内業務の可視化を行うことが重要になってきます。
RPAに作業を落とし込む為には、具体的で正確な作業内容を把握する必要があります。
そのため、詳細な業務内容や必要工数を洗い出すことがRPA導入を成功させる要諦になってきます。
自社の業務を可視化することで、非効率的な業務の見直しや改善にも繋がってきます。
まとめ
本記事では、RPAの活用事例を業界別に紹介し、業界別の導入される理由とポイントを解説しました。
ポイントの詳細は業界により異なりますが、いずれの業界も業務フローの見直しがRPA導入の鍵となります。
RPAは反復作業を得意とする点や、AIと違って学習能力がない点などの特徴を踏まえ、現状で代行ができる業務があるかどうかをまずは洗い出すといいでしょう。
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