製造されたモノをインターネットに繋げて操作する技術をIoT(Internet of Thingsの頭文字)と言います。
IoTが当たり前になりつつある製造業において、設計や作業工程から顧客のニーズ調査までをシームレスに行うことがDXの大きな役割のひとつです。
国内だけでなくグローバルな視点から事例をみていくと、製造業に関わる方々が課題を解決するヒントが見つかるかもしれません。
今回は当メディアを運営するストラテジーテックコンサルティング編集部の海外担当が、海外の製造業のDXケーススタディをわかりやすくご紹介します。
目次
製造業の第4次産業革命「インダストリー4.0」
製造業のデジタル化、オートメーション化、DXに欠かせないキーワードが「インダストリー4.0」です。
日本の総務省ホームページでは、「人口減少時代のICTによる持続的成長」の中で「第4次産業革命」として触れられています。
もともとは製造業が盛んなドイツの国家戦略として掲げられ、ヨーロッパから世界へと広がっていきました。
ドイツの製造業からインダストリー4.0が発展した大きな要因のひとつが、各都市で毎年開催されていたメッセと呼ばれる大規模見本市です。
国の後押しもあり、筆者がドイツに住んでいた頃は大きなドーム型会場内の展示ブースやデモンストレーションスペースを、子どもから大人まで楽しむことができました。
大規模メッセにはドイツと陸続きのヨーロッパ各国だけでなく、アフリカ大陸やアジア、北米からも大勢のゲストが参加していました。
多種多様な情報やヒトの流れと共にインダストリー4.0はグローバルスタンダードへと発展していったと考えられます。
もはやIoTで様々なモノがインターネットにアクセスできる時代に、製造工程の全自動化に着目しているのは日本だけではありません。
それでは早速、海外の事例をみていきましょう。
参照:)インダストリー4.0 人口減少時代のICTによる持続的成長/総務省
製造業DX海外事例の紹介3選
製造業DX事例「ダウンタイム改善に成功したFlowserve Corporation(Flowserve社)」
米国のFlowserve社はポンプやバルブの製造企業で、PTC社のThingWorx®を活用して製造工程のダウンタイム改善を実現しました。
導入時に着目したポイントは、企業における有形の物的資産だけでなく、顧客の期待値予測に繋がるモニタリングデータ、いわゆる無形資産を重要視したことです。
そのため、製造工程の改善だけでなくモニタリング技術で収集したデータを活用し、顧客のニーズまで把握できるPTC社のThingWorx®が投資対象に選ばれました。
IoTモニタリングを実現したことにより、ポンプの問題が探知された時点でデバイスに情報が届き最速で対応できるため、時間を無駄にしません。
高度な技術で予測値が把握できるため、設計から製造、ボトルネックの選定をデジタル化で繋げ、シームレスに管理できるようになりました。
DXを推進するためPTC社が提供するプロダクトに投資したことで、製造工程における出口の見えない、且つ何度も繰り返される課題を解決したのです。
参照:)DIGITAL PERFORMANCE MANAGEMENT SOLUTION TO DRIVE MANUFACTURING EFFICIENCY/IEN europe
参照:)Flowserve 社、IoT ベースのリモートモニタリングで現場の効率と信頼性を強化/PTC
製造業DX事例「デジタルツインを実現した3B the fibreglass company(3B社)」
ベルギーを拠点にグローバル展開をしているグラスファイバー製造業者3B社は、デジタルとリアルを融合させるデジタルツインを実践しています。
Dassault Systems社のDELMIA Ortemsを導入して生産ラインやプラントをリアルタイムで把握できるようにしました。
これは最適な人員配置にも繋がる重要なデータとも言えます。
高度なモニタリング技術やスケジュール管理機能を備えているため、現時点だけでなく将来の資材や人員の調整を可能にし、生産現場に革新的なインパクトを与えました。
グローバル規模で多様なリソースを最大限に活かすことで、顧客の要望に対して細やかに対応する時間の確保に成功しています。
参照:)ENABLING MANUFACTURING INNOVATION WITH THE VIRTUAL TWIN EXPERIENCE/IEN europe
参照:)3B-the fibreglass company/3B
製造業DX事例「B2BとB2Cのデータ統合により売上を伸ばしたSamuel Hubbard社」
米国のSamuel Hubbard社は創業者がリトアニアから移住してきた老舗のシューズメーカーで、世界中に販路を見出しています。
創業時は小さな工場で子ども靴を扱っていましたが、高級な素材や皮を使用するようになり、カジュアルな靴だけでなくドレスシューズにも定評があります。
老舗メーカーは靴の製造DXを進める上で、それまで手作業で行っていた日々のタスクや注文管理を自動化することで、セールス部門の負担軽減を目指しました。
さらには顧客の満足度を向上させ、B2BとB2C両方のデータを統合することにも挑戦しました。
そこで投資対象に選ばれたのは、B2Bのeコマースに強いOroCommerceのプラットフォームです。
導入にあたっては、いくつかの課題をクリアする必要がありましたが、困難を乗り越えOroCRMを活用してB2BデータをB2Cデータに統合することに成功しました。
その結果、どうなったでしょう。
製造販売ビジネスレポートを360度の視座から表示させることに成功し、より効果的なマーケティング活動が実践できるようになり、売上が伸びました。
参照:)HONORED BY THE PAST/Samuel Hubbard
参照:)Major Shoe Manufacturer Samuel Hubbard Starts B2B eCommerce/OroCommerce
製造業DXの気になる海外技術
続いて、製造業DXの最新海外技術に焦点を当ててみましょう。
需要が高まり今後さらにDXが発展していくと予測される製造分野のひとつに、自転車製造があります。
製造業を各方面から支援しているPTC社の技術を用いると、自転車部品に取り付けたセンサーがリアルタイムで負荷を検知し、CADのデータと組み合わせることができます。
それにより各部品にどのくらい負荷がかかっているかをシームレスに確認できるようになりました。
さらにCADのシミュレーターを使いARに繋げることで、デジタル上で設計から製造工程、必要な人員予測を把握できます。
製品設計後にARで可視化しデジタルで共有することで、製造現場で大きな機械を作動させ不具合や故障対応に費やしていた工程を省くことも可能です。
センサーの取り付けが難しいモーターの場合、電圧と電流から温度を予測し、あと何時間で規定の温度に達するか、未来の予想値も計算できます。
機器の内部が見えないときは、デバイスをかざしてARを活用することで蓋を開けなくても中身を確認できる技術へと発展しました。
その場で分解したいとき、CADのアニメーション機能を使えばデジタル上で分解して内部を把握できると、工数削減に繋がるのではないでしょうか。
製造業が目指すDX後の姿
製造管理において、自動化が進んでも残る課題のひとつに職人技術の伝承が挙げられます。
職人の手に残されている作業手順を次の世代へ受け継いでいくためにも、DXの導入を検討する企業が増えました。
たとえば職人の技をAR技術で3Dアニメーション動画にすることで、後世に残すことができます。
すぐに技術を継承することが難しい場合、職人技術がデジタル空間に残されていれば実際に触れることはできなくても新しい世代にきっと届くでしょう。
製造分野が目指すDX後の姿は、未来に繋がる人材の育成をデジタル技術で補っていくことかもしれません。
たとえば「技術の記録にはAR、技術の訓練にはVRを活用する」と、方針を決めて用途によってデジタル技術を使い分けると、DXをより効果的に推進していけます。
海外製造DXの成功事例に共通するポイント
これまで海外の事例や技術について解説してきました。
では、DXが成果に繋がった海外事例に共通するポイントは何でしょうか?
どんなにオートメーション化が進んでも、扱うのは人間です。
いくつもの課題をクリアし、リアルとデジタルを繋げ、収集されたデータを効果的に活用できるかどうかは人の手にかかっています。
膨大なデータを集計、管理、分析し、大勢の働く仲間を巻き込んでいくにはコミュニケーションが必要不可欠です。
つまり信頼できるプラットフォームやパートナーとの関係性が成功の土台となるのです。
オートメーション技術を新しく導入する費用は決して安価なものではありません。
「投資に見合う価値が得られるか」「成果に繋がるか」「他に優先することはないか」
課題には悩みがつきものですが、信頼できるDXコンサルタントや企業担当者に打ち明けることで、新しくカスタマイズを実装してもらい、成果に繋がった事例もあります。
成功の鍵は、製造分野における目の前の課題と向き合い、選定したコンサルタントやビジネスパートナーを信頼し、尊重することかもしれません。
製造業DXの海外事例のまとめ
グローバルな製造業DXの事例をみると、単純にITシステムを導入するだけでなく、組織の全体最適化を常に目指した姿が分かります。
デジタルのメリットは、生産性の向上・そしてコストカットにあります。つまり、製造業におけるDXは経営に直結したIT活用により企業組織全体の最適化を実現することが何より求められると言えるのではないでしょうか。
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